こちらの記事は、アメリカのチップ制度についての後半です。
まだ前半を読んでいない方こちら
この記事は、2025年に予定されているチップ制度の法改正前に執筆したものです。
トランプ政権の公約の一つに「チップを非課税」にするというものがあり
まさに今審議されています。
また、ここ数年でアメリカで取り入れられた「サービスチャージ」に関しても
今後記事にしようと思います。
ルール変更後の影響についてと合わせて、「チップ」と「サービスチャージ」についても記事にしたいと思っています。
前半の記事を簡単に振り返りますと、
アメリカ生活で避けられない「チップ文化」。
外食やカフェ、ファストフードに至るまで、あらゆる場面でチップが求められる現実と、その背景にある曖昧なルールについて触れました。
本来は感謝の気持ちだったはずのチップも、今では義務のような空気に変わり、
特にコロナ以降はその負担が増しています。
経営者にとっては人件費を補う手段にもなっており、給与の一部を客が負担するという構造です。
一方、日本ではチップを受け取らない従業員を目の当たりにし、アメリカ人にとっては驚きと衝撃の体験となっている。
ということを紹介しました。
後半は、レストラン関係者として内部の事情も交えて込み入った話しをします。
チップを受け取れるのは誰だ?
チップは100%サービス従事者の従業員に分配されます。
オーナーやマネージャーポジションの人が受け取ることはできません。
オーナーがサービスをしていたとしても受け取れません。
例えば、私がオーナーシェフとして現場に入っていたとして、
シェフありがとう。と手渡されたものも受け取れません。
従業員だけで分配します。
訴えられると確実に負けます。
訴えられなければOKという曖昧な部分も残しているのでこそこそ悪いことをしているビジネスオーナーもいることはいます。
チップの分配はどのように決まる?
チップをどう分配するかは州の法律によってもレストランによっても違います。
基本的にサーバーしか受け取れない州が多いです。
アメリカのレストランは、仕事は細分化されポジションによってチップをもらえるかどうか、またその配分も代わります。
サーバーにチップの大部分が分配されます。
先程も言いましたがマネージャーはチップを受け取れません。
細分化されたレストランのポジションを紹介します。
フロント(接客側)の主なポジション
- ゼネラルマネージャー(GM)
- レストラン全体の管理。
主にフロント業務がメインですが、エグゼクティブシェフと協力してチーム全体を牽引するリーダー。
大きな組織では経営層と従業員を繋ぐ橋渡し役でもある。 - アシスタントマネージャー
- GMの補佐役。
- バーテンダー
- お酒を専門に提供する職業の人。
- ソムリエ
- ワインを専門に扱うサービスのプロフェッショナル。
- サーバー(Server)
- ゲストに直接サービスを提供するメインの接客担当。チップの大部分を受け取る中心的存在です。サーバーはキャプテンとアシスタントサーバーなどに別れます。
- キャプテン(Captain)
- サーバーの中でもメインの担当。高級レストランや大箱の店ではテーブル全体の責任を持つ「リーダー格」として配置されます。
- アシスタントサーバー
- キャプテンを補佐する役割。皿を下げたり、水を補充したりと、サポート全般を担当します。
- バッサー(Busser)
- 食器やグラスをテーブルから下げて片付け、次のゲストを迎える準備を整えます。
- ランナー(Runner)
- 料理が完成すると、キッチンからゲストのテーブルまで運ぶ役割を担います。料理の説明は行わず、物理的な移動が主です。
バック(調理側)の主なポジション
- エグゼクティブシェフ(Executive Chef)
メニューの監修や人材管理、コストコントロールなど、キッチン全体の責任者。調理場には立たない場合もあります。 - スーシェフ(Sous Chef)
キッチンの現場を管理する2番手。料理のクオリティやスタッフの動きをチェックします。 - プレップクック(Prep Cook)
開店前に野菜を切ったり、ソースを仕込んだりするなど、仕込みを専門に行うスタッフです。 - ラインクック(Line Cook)
営業中に調理ラインに立ち、実際に料理を仕上げる「現場の最前線」の調理人です。 - ディッシュウォッシャー(Dishwasher)
食器、鍋、調理器具などを洗浄するポジション。地味ですが不可欠な役割です。
接客側と調理側に分けてそれぞれ役割があります。
ほんの一例でレストランの規模によりさらに細分化されたり、複数のポジションを兼任したりします。
ポジションは複雑です。
この中でチップをもらえる人とは?
フロントではサーバー、ソムリエ、バーテンダーです。
ランナーやバッサーはもらえたとしてもサーバーなどに比べてポイントはかなり低いです。
サーバーでもキャプテンの方がアシスタントよりもポイントは高いです。
どのように配分されるかはそれぞれ違います。
バックの人で言うともらえないところがほとんどでしょう。
ちなみにエグゼクティブシェフやスーシェフという役職が着く場合にはマネージャーになります。
なのでアメリカの一般的なレストランでは、次の4つが管理職というポジションになります。
- GM
- アシスタントマネージャー
- エグゼクティブシェフ
- スーシェフ
チップ文化がもたらす収入の逆転現象
ここで何が起こるかというと収入の逆転現象です。
仕事も多く、ストレスの多いマネージャーよりもチップのあるサーバーの方が稼げちゃうんですね。
私がニューヨークで働いていた頃、休日もよく店に来ていろいろな仕込みをしていました。
常連さんも掴んできて、その人達が飽きないようにといつも工夫するのが楽しみでもありました。
朝早く来てゲストのために準備するんです。
ディナーでゲストを迎えて一生懸命接客するんです、
そして大喜びしてくれてありがとうとチェックにチップをたくさんつけて帰ってくれるんです。
勘のいい人はオチが分かったと思いますが、
私はマネージャーポジションだったのでそのチップは全てサーバーに行くんですね。
マネージャーでは無かったとしてもシェフの場合にはもらえないか、もらえたとしてもかなりポイントは低いです
サーバーは夕方に来て、私が接客中も裏でケータイいじってろくに仕事もしていないのに、と憤りを感じでいました。
ちなみに彼らは年収で10万ドルを超えてましたが私は半分以下でした。
偉くなったら負け、マネージャーになりたがらないスタッフ
チップ文化の弊害で、アメリカではキッチンをやる人やマネージャーになりたい人が増えないという問題もあります。
だってサーバーの方が稼げるから。
私はシェフに稼いでほしいから今の形態でレストランを始めたというのもあります。
サーバーが必要ないフードホールでシェフが自ら持っていくというスタイルです。
マネージャーもいません。チップは入った人全員で均等に分配します。
お客様に迷惑をかけない必要最低限の人員です。
他のレストランでは稼げないくらいシェフにチップを稼いで貰えるんですね。
フルタイムの人は年収10万ドルを超えます。
ここでみなさんはどう思いますか?
おい、そんなに稼がんでいいだろ!お客様に還元しろと思いますか?
私はこう思います。
稼いでいいんです!
飲食店関係者の皆様、稼ぎましょう。
ITや他の業界の方が利益率50%以上とか言われても値下げしろとはならないですよね?
飲食店は長時間労働で立ち仕事です。
頑張ってやりくりして10%利益が出れば良しとされる業界です。
夢無いですよね。
好きじゃなきゃ続けられないですよね。
なのでせめてもう少し稼ぎましょう、オーナーも従業員も
と私は思います。
チップのおかげでオーナーは人件費を抑えられるし、従業員はそこに夢を見れるんです。
この原理が成り立つにはアメリカの食文化が影響しています。
アメリカの食文化と消費者の選択
アメリカ人は外食するんです。
肌感覚ですが日本人よりも頻繁に外食します。
夫婦共働きで世帯年収を上げる。
子供はベビーシッターに見てもらうという家庭が多い印象です。
節約するよりも稼いで使うというマインドです。
外食も我慢しません。
着飾ってレストランに行きたいんです。
外でお酒を飲みたいんです。
コロナでデリバリーの需要は劇的に高まりましたが、
それでもまだまだ外食が人気なんですね。
チップを払いたくない人はレストランに行かずスーパーで買って自炊してればいいじゃんとはならないんですね。
なぜならレストランで食事したいからです。
だからチップに対する不満が出るんです。
私が考える解決策は一つ
レストランのサービスのクオリティを上げること
これ以外ないです。
仮にチップをやめることができたとして、
その分をカバーするためにオーナーは売値をあげます。
結果的にお客様が払う金額は変わりません。
従業員がもらうお金は絶対に減ります。
チップだとオーナーは触れませんが、売り上げなら触れます。
上がった売上を従業員に還元するオーナーは少ない。
お金を還元しようとするオーナーは少ないと思いませんか?
オーナーも稼ぎ、従業員も稼げるチップシステム
誰もがなれるレストランの従業員でも稼げるシステムがチップなんです。
経済を循環させるという意味でも、末端にも正当にお金が入るというのは個人的には優れたシステムだと思っています。
日本にもあるチップではないが、同じような原理のもの
ちなみに日本にも同じような原理のものはあります。
例えば深夜料金、観光地料金(これはアメリカにもあります)
深夜料金てチップと同じ原理じゃないですか?
深夜は法律によりバイト代が日中よりも高いです。その分負担してくださいと。
ただここで言えるのは、夜遅くまでお客様のために店を開けてくれてありがとうという感覚にカモフラージュされてますが、店を深夜も開けているのは店の利益のためです。
お客様のためではありません。(赤字だったらやらないですよね)
なら、その分のコストは店側が負担すべきでは?というチップと同じ反論ができると思います。
観光地料もそうです。
他より家賃が高いかもしれませんが、その分人も来ますよね?
追加でとらずに売り上げでやりくりしろよと。
需要があるからチップも深夜料金も成立する
何が言いたいかと言うと、見せ方の問題で過剰に反応してしまいがちですが、
何事も需要があるかどうかということです。
深夜料金を払っても深夜に行きたい人がいるということ。
チップを25%払ってもそのレストランに行きたい人がいるということが全てです。
選ぶのは消費者です。
選ばれ続けるためにレストラン関係者はクオリティを保ち続けなければいけません。
チップを25%払って欲しいならそれに見合うサービスで納得させなければいけません。
良いサービスの店がアメリカにも増えてレベルが上がれば悪いサービスの店は自然と淘汰され無くなっていきます。
日本人の接客は本当にすごい
そこの先頭に立つのが日本人のレストラン経営者であったり日本人の従業員だと思っています。
日本のスタンダードがアメリカで革命を起こす未来が来る
と思っています。
接客に対する日本人のメンタリティは本当にすごいです。
海外に住んだことがある人なら誰しもが思うことだと思います。
おもてなしの国、日本に生まれ育ったことを感謝しています。
チップの話しからいろいろと派生しましたが最後まで読んでいただきありがとうございます。